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広く浅くの限界

『君の膵臓をたべたい』読み終わったので感想を書く【ネタバレ注意】


ふらっと立ち寄った本屋で大々的に宣伝されていて、タイトルについつい惹かれてしまったので読んでみました。

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

ある日、高校生の僕は病院で1冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていた。こうして、偶然にも【ただのクラスメイト】から【秘密を知るクラスメイト】となった僕。まるで自分とは正反対の彼女に、僕は徐々にひかれていった。だが、世界は病を患った彼女にさえ、平等に残酷な現実をつきつける――。


来年の夏に映画化されるようで。略して『キミスイ』というらしい。
レビューを見てみると、ものすごく感動する、泣けるなど高評価だったのでワクワクしながら1日で読破しました。
結論から言うと、わたしは泣かなかったです。期待しすぎた部分があったのか、ちょっとガッカリな読み終わりでした。
ネタバレを含む部分もありますので、お気をつけください。

ちなみに。


水槽じゃなくて膵臓(すいぞう)です。
君の水槽をたべたいってなんだ。

あらすじ

主人公の【僕】はある日盲腸の治療で訪れた病院で、「共病文庫」と書かれた本を拾う。何気なく開いてみると、そこには膵臓の病気で余命が数年しかないというようなことが書いてあった。驚きつつも本を閉じると、同じクラスの山内桜良(やまうちさくら)に声をかけられる。なんとこの共病文庫はクラスメイトの持ち物だったのだ。

桜良に、皆には病気のことを話していないから学校でも内緒にしてほしいと言われ、主人公はこれ以上桜良と関わることはないだろうと安心しその日は帰宅した。しかしその考えは次の日にあっさり裏切られる。

桜良は、なぜだか主人公が所属していた図書委員に入ることを決めたようで、流される性質の【僕】は疑問を持ちながらも桜良に仕事を教えた。

人と関わりを持ちたがらない【僕】と、明るくてクラスの人気者の桜良。2人の不思議な関係がここから始まっていく。


解説

作者の住野よるさんのことを知らなかったので調べてみたら、なんとこの作品がデビュー作らしい。デビュー作が映画化って、結構すごい、夢がある。


【僕】の名前について

まず、一番初めに皆が気になるであろう主人公の名前。終盤まで彼の名前は出てこず、話す相手や場面によって【地味なクラスメイト】くん、や【秘密を知ってるクラスメイト】くんなど表記が変わる。
主人公は、相手が自分の名前を呼んだ時に、その人が自分のことをどう思っているか想像するのが好きらしく、この墨付カッコの中には主人公が想像している「相手が自分をどう思っているか」が当てはめられる。

「君みたいな名前の小説家いるよね?」
「そうだね、どっちが思い浮かんでるのか知らないけど」
僕は自分の名字と名前、それぞれから連想できる二人の作家を思い出す。

本文中にあるように、主人公の苗字と名前はそれぞれ連想できる作家がいるようだ。

このあと桜良に、一番好きな作家は名前と同じ人かと聞かれたときに太宰治が好きだと否定しているので、太宰という苗字でも治という名前でもないらしい。


ここは物語の終盤、桜良が死んだ後に伏線が回収されるようになってるんだけど、わたし的にはこの伏線回収がちょっとガッカリだった。物語の間中ずっと主人公の名前を考えてしまっていて、どんな名前なんだろうって期待値が上がってしまってたんだけど、名前そのものにはあまり深い意味もトリックもなかったので、アレッなんだぁと肩透かしをくらってしまった。



明るくて主人公と正反対のクラスメイト

「うわははっ」と特徴的に笑うクラスメイトの女の子、山内桜良。なんとも自由人で、主人公をあっちこっち連れ回す。病気のことで暗くなったりはせず、不謹慎なジョークをどんどんぶちかます。


明るくてみんなに愛されるいい子だなあと思うけど、正直同じクラスにいたら仲良くなってないタイプの女の子。主人公も、人気者の桜良と関わることで嫌がらせを受けるシーンがあるんだけど、ああものすごくわかる…と変に納得してしまった。

本人に悪気はないんだけど、破天荒な行動に何度かハラハラというか少しイラッときてしまったシーンがある。もちろん、最後まで読み終わり彼女の真意が分かったことにより納得したんだけど、なにぶん台詞回しがラノベ調なので苦笑いのシーンが何度かあった。


でも、膵臓を患ってるのに焼肉食べ放題でホルモンを食い荒らしたり、モツ鍋を食べにわざわざ博多まで行っちゃうところはなかなかいいセンスしてるなと思った。



個人的に一番好きなキャラ

ずばり、ガムをくれるクラスメイトくん。
最後まで名前が出てこないのでこの言い方しかできない。

ちょいちょい出てきてはどんなシーンでもガムを勧めてくるこのキャラ、こういうキャラがわたしはどうも好きである。物語的にも良い緩和剤になってくれてると思う。

最終的には主人公とも友人関係になり、わたし個人的にはここが一番ほっこりした。



選択して生きてきたということ

僕等は偶然に出会ったと言う主人公に、桜良が反論する場面がある。

「違うよ。偶然じゃない。私達は、皆、自分で選んでここに来たの。君と私がクラスが一緒だったのも、あの日病院にいたのも、偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私達を会わせたの。私達は、自分の意思で出会ったんだよ」

今自分が歩んでいる道は、自分で選択してきた結果。
この台詞はわたしの心にやたら刺さった。

プラスの意味でも、マイナスの意味でも、今自分が置かれてる状況は自分の選択の結果なんだよなあ。あのときああしておけば、こうしておけばと後悔することが沢山あるけど、そのときその選択をしたのは紛れもない自分なわけで。もっと、自分のしてきた選択に自信と責任を持たなければいけないと考えさせてくれた。

選ばなかった道のこと、選ばなかった選択のことをくよくよ悩んだってしょうがない!と桜良に叱咤された気持ちになった。話の流れは全然ちがうけど。


わたし的にはここの台詞がクライマックスだった気がする(話的には序盤の方での発言だけど)。



まとめ

全体的に読みやすくて、あまり本を読まない学生さんとかにはオススメできる本でした。高校生とかに読んでほしい。
主人公や桜良の台詞の言い回しがどうしてもラノベ感が強くて、ちょっと寒いかなぁと気になったところが多々あるけど、そこも含めて読みやすさはあったと思います。
純文学などが好きな人にはあんまりオススメしない。


伏線も、回収しきれてないというかなんか意味あったの?って部分が多々あったので、そこも少し気になるポイントかなぁ。主人公の名前とかも。
まあ、桜良の最期についてデカい釣り針が仕掛けられてたのに全然気づかなかったんだけど。ここの伏線回収は予想できなかったのでよかった。(他の人はみんな気づいてたとかだったら恥ずかしい)


全体的なテーマと、主人公と桜良の仲が深まっていく様子、主人公が変わっていくのはじんわり心に沁みました。レビューで期待しすぎたせいで泣くには至らなかったけど、共病文庫の中身を読んでるときは切ない気持ちになったし、読み終わってからは心が暖かくなりました。

このレビューでハードルを下げてから読んでみると案外よいかもしれない。気になった方は是非読んでみてください。


わたしが買った電子書籍版はこちら。


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